【面白くてハマる本!】『論理的思考力を鍛える33の思考実験』北村良子 「5億円ボタン」の思考実験紹介
考えるって面白い!
【内容紹介】
思考実験とはある特定の条件の下で考えを深め、頭の中で推論を重ねながら自分なりの結論を導き出していく、思考による実験です。
例えば、ニュートンは落下するりんごを見て、この現象が宇宙の他の星にも働いているのではないか、なぜ月は落ちてこないのかと着想したという説があります。この思考が、有名な万有引力の法則につながっていくわけですが、これもりんごが落下するという事象を頭の中で拡大解釈していった、一種の思考実験といえます。
本書では、「トロッコ問題」、「テセウスの船」、「アキレスと亀」、「ギャンブラーの葛藤」、「モンティ・ホール問題」、「エレベーターの男女」、「マリーの部屋」、「ありえない計算式」…など有名どころからオリジナルまで、33の思考実験を掲載しています。
最初に出てくるのは思考実験を一躍有名にしたトロッコ問題です。暴走したトロッコの先には5人の作業員がおり、線路を切り替えれば1人の作業員がいる。このときあなたは線路を切り替えますか?という1つの場面からいくつもの設定が加わり、シナリオが多岐にわたって展開していきます。
その他、俊足の男が亀に追いつけないはずだという「アキレスと亀」に代表されるようなパラドックス問題、数字を扱った極めて論理的な問題、過去と未来を想像したり初めて色を見た瞬間を想像したりと脳の中で世界観を作り出す必要のある問題もあります。
物語やトリックのような世界を楽しんでいるうちに自然と論理的思考力が鍛えられ、思考の中の新たな発見や気づきが生まれることに気がつくでしょう。
この下から、33ある中の特に面白かった「5億年ボタン」の思考実験を紹介٩( ᐛ )و!!
【思考実験 5億円ボタン】
5億円ボタンは、菅原そうた氏によるCG漫画「みんなのトニオちゃん」内のエピソード「アルバイト(BUTTON)」で登場するボタンです。
楽なアルバイトを探しているスネ郎とジャイ太。ジャイ太がトニオにいいアルバイトがないかと詰め寄ると、トニオがあるアルバイトを紹介します。
「いいかどうかは分からないでちゅけど」と前置きをしつつも、「一瞬で100万円稼げるバイト」と言うのです。
驚くスネ郎とジャイ太に、トニオはさらに説明を続けます。
・仕事内容は簡単で誰でもできるもの
・一瞬ボタンを押すだけ
・ボタンを押すと微弱な電流が流れて何もない空間にワープする
・ワープした先で5億年を過ごす
「ずーっとひとりでこーゆー何もない空間でただひらすら『生きてろ』っていうバイト。やりまちゅか?100万円の為に」
トニオの説明によると、意識はハッキリしており、眠ったり死んだりできません。ただ、終わった瞬間に5億年分の記憶はすべて消され、もとの「やる」と言った瞬間に元の状態で戻れるのです。
そして、「もう終わったの?一瞬で100万円手に入ったじゃないか」と感じるというのです。
あなたはこのボタンを押しますか?
どうでしょうか?わたしは絶対に押さない派。だって拘束時間長いんだもん٩( ᐛ )و<ww
終わった瞬間に5億年の記憶が消されたとしても、ボタンを押した瞬間に過ごさなければいけない5億年を考えたら辛くてしょうがない。
どちらかに分かれると思うのだが、一体正しいのはどちらなのか?
●5億年の世界で過ごすということ
5億年の間何もない空間で、眠ることもできず、ずっとそこにいなくてはならないというのは、誰にとっても苦痛であり、あまりにも長い時間に絶望を感じるでしょう。
唯一の希望は5億年たてば元に戻れるという事実だけです。それだけで5億年を耐えきることができるでしょうか。
もし、今日から1年間、生活費は出すから何もせずに誰ともかかわらずにただ考え事をして過ごせと言われたら、5億年に比べればほんの一瞬にもかかわらず二度とやりたくない苦痛と感じるのではないでしょうか。世界は動いているのに、自分だけ取り残された気分になるでしょう。
ただ、現実での1年間と、お腹もすかない、年も取らない5億年ボタンの世界での1年間は全く異なるものです。
5億年の世界では、何もしなことで体が弱ってしまったり、精神的な病気になったり、世間体を気にしたりする心配はありません。現実世界では一瞬も時間が経過していないことになるのですから、そういった体や社会の変化を気にする必要はないのです。記憶を含め、何もかもが元に戻るのですから、その場さえ乗り切れば後のことは全く心配する必要がありません。
こう考えると問題になってくるのは、社会的な目でもなく、肉体的な変化でもなく、経済的な不安でもありません。ただ1つ、精神的な苦痛が残るだけです。
もし、5億年の間ずっと気を失っていられるのなら、100人がこのアルバイトに参加するはずです。もちろん、トニオを信用することを前提とするなら、ですが。
つまり、ボタンを押すときに問題となるのは、連続した5億年分の意識です。5億年が存在しても、意識がないなら問題にはならないのです。
●ボタンを押すと答える人
ボタンを押すと答える人は例えばこう考えます。
ボタンを押したあと、5億年を過ごしたとして、その記憶はすべてなくなってしまうのですから、感覚としては一瞬で100万円が入ります。もし、このボタンを10回押したとしたら、一瞬にして1000万円が手に入ることになります。これならやらない理由がどこにあるのでしょうか。
例えば、あなたが今何らかのボタンを押したとしましょう。あなたは気がついていませんが、実はそれは5億年ボタンだったのです。
これが本当だったとしても、ほら、気づきもしていないではありませんか。何の苦痛も感じていませんよね。
こう考えると5億年ボタンを押す行為によって、実生活になんの変化も生まれないわけです。何もない空間での5億年の間、苦痛を味わったとして、それはすでに過去の話ですし、そもそも覚えていないのですから記憶とも呼べません。
5億年で100万円か一瞬で100万円かの答えを出すとしたら、当然一瞬で100万円が手に入ったと考えます。
●ボタンを押さないと答える人
一方、ボタンを押さない人の考えは次のようなものです。
たとえ記憶がすっかり消され、一瞬で100万円を手にすることができると感じるとしても、実際には耐え難い5億年を過ごしているのだ。
人生を100年と考えて、その50倍もの時間をただただ何もない空間で、孤独と退屈を感じながら過ごすなんて想像するだけで怖くなる。そこまでの苦痛を耐えてたったの100万円では割りに合わない。
したがって、100万円を受け取るための5億年はやる価値がないと結論付けます。
5億年で100万円か一瞬で100万円かの答えを出すとしたら、5億年で100万円と考え、結果押すという選択肢はありえません。
この2つの意見の大きな差は、結果重視か過程重視かということでしょう。
結果だけを考えればやらない理由などどこにもありません。体が衰えるわけでもなければトラウマが残るわけでもなく、ボタンを押す直前からの記憶は連続していて、ただボタンを押しただけで100万円を手に入れたいという記憶がハッキリと脳に刻まれます。
そこには5億年などどこにも残っていません。押す瞬間は怖いと感じるでしょうが、押してしまえばなんてことはありません。一瞬で100万円が手に入ります。
過程重視の場合は、たとえ感覚として100万円を手に入れることができるとしても、現実に5億年は存在し、ボタンを押せば5億年を経験することになるのは明らかです。
そこは年給0.002円の世界なのです。どんなに気が狂おうと、死ぬこともできなければリタイアもできないのです。それほどの苦痛を味わうとわかっていて、たった100万円で引き受けるでしょうか?
いくら感覚的に一瞬であっても、実際に5億年の世界を体験するのであればその一瞬は確かに5億年なのです。
さて、あなたの考えはどちらですか?
これが、ネットでのCGマンガ作品『みんなのトニオちゃん』の5億年ボタン。
私も見たけどトラウマになりそうになるくらい怖い…٩( ᐛ )و<勇気のある方は是非!!